会長・実行委員長挨拶
日本建築学会会長吉野 博日本建築学会は創立128周年を迎えました。全国大会としては115回目です。この大会では、様々なテーマの研究発表会や研究集会、各種の記念行事、懇親会が設けられ、全国から参集した多くの会員がそれらの場を通して情報交換や交流を行います。会員にとっては、最新の情報や新たな知己を得て世界を広げるための、またとない機会です。
今回は神戸大学において開催されることになりました。過去を振り返ると神戸大学での開催は、近畿支部での大会の3回前の1987年で27年ぶりということになります。その後1995年に阪神・淡路大震災が発生しましたが、それから19年が経過しました。
この4月に神戸市内を案内してもらう機会があり、中心市街地やメリケン波止場、長田区などを見て回りましたが、震災の爪後は記念的に残されているだけで、復興は完了していました。また、人と防災未来センターや兵庫県立美術館を始めとして素晴らしい建築物が中心部に立ち並んでおり新たな神戸の顔を創っているという印象を受けました。
一方、東日本大震災が発生してから3年以上が経過しておりますが、復興にはまだまだ時間がかかりそうです。特に福島県の放射能で汚染された地域での復興に関しては多くの問題が山積しております。また近年、気候変動が原因であると推察されている豪雨、竜巻、豪雪などによる災害が多発し、被災地での復興が大きな課題となっています。
今年の大会のテーマは「再生―未来へつなぐ―」です。これは、以上のような自然災害の様々な困難を乗り越えて再生を果たし、レジリアントでサステナブルな未来のまち・むら・住まいへとつなげていくことを意図したテーマだと理解しております。近い将来に発生するといわれている南海トラフや首都直下型の大地震への備えは大変に重要であり、事前復興も視野に入れて未来へつなぐ必要があります。大会では、これらの課題に関連したイベントや研究集会が企画されていますので、大いに議論していただきたいと思います。
大会は、全国各地で開催されてきました。建築・都市はそれぞれの地において特徴ある形態や環境を見せてくれます。今回は神戸で開催されます。阪神・淡路大震災から再生し、更に素晴らしい都市へと変身した神戸の街並みや建築を見学し、いかにして復興してきたかを学ぶ良い機会でもあります。大会は9月12日から開催されます。是非、ご参集ください。
阪神・淡路の現在そして未来へ
大会実行委員長松下敬幸阪神・淡路大震災からまもなく20年が巡ってくる中、神戸の地で115回目の建築学会大会が開催されます。9年に一度の近畿での大会かつ1987年(昭和62年)以来27年ぶりに神戸大学での開催となる巡り合わせの中、阪神・淡路大震災の直後のご援助とその後の復興にお力添えをいただきましたことへの感謝の念を胸に建築の関係の方々を全国からお迎えしたい、という想いで実行委員会が立ち上がりました。「絆(きづな)」という言葉もよく使われていますが、大きな災害時にこそ、その直後はもちろん長期にわたる復興の過程での人と人とのつながりが重要です。被害を受けた状況から人と人とが助け合って復興を目指すと同時に、その先にある新しい時代への再生を試みることが人としての希望につながるとも考えられます。その想いを込めて、今回の大会テーマ「再生-未来へつなぐ-」となったと理解しております。
地球規模で考えると異常とはいえないのかもしれませんが、昨今の地震、津波、台風、大雨、大雪が人の生活に尋常ではない影響を及ぼしていることも事実です。穏やかな日々を期待するのが人情であり、自分だけは平穏無事と考えてしまいがちになります。が、ある日突然に被害を受けた場合、決して一般論的、平均的な物事の見方ができなくなる当事者となってしまいます。日常の適切な生活環境構築への寄与はもちろんですが、災害時に少しでも被害を受けることを減少させ、平穏な状況でも非常時の被害の程度を低減するための努力を続けることも、建築に携わる集団の役割と考えます。
神戸大学を会場とする建築学会大会からの帰路は、ぜひ徒歩にて最寄り駅に向かう下りの坂道から神戸市内を一望いただきますとともに、できましたら阪神・淡路のいずれかの場所に足をお運びいただき、震災から20年の間に奮闘した復興の後とこれからも続く再生に目を向けていただきます機会となればと願っております。移り変わる時代の中での一期一会の機会として、慈愛と希望の気持ちを共有しつつ建築の未来を語り合う学会となることを祈念しています。